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2026年10月21日 更新
Hokkaido29 特集・独自解説

会社法356条の競業・利益相反取引とは?無効や賠償リスクを防ぐ実務解説

目次
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    企業の舵取りを担う取締役が、会社の利益を犠牲にして自身や知人の利益を図る行為は、企業統治の根幹を揺るがしかねません。こうした背任的な行為を未然に防ぎ、会社財産と株主の利益を守るために定められているのが会社法356条です。

    起業ブームや副業・兼業の拡大、兼任役員の増加に伴い、無意識のうちに同条の規制に抵触してしまうケースが後を絶ちません。手続きを怠った取引は、後から無効を主張されたり、役員個人が多額の損害賠償責任を負ったりする危険があります。役員や法務担当者が押さえておくべき実務上の急所を整理しました。

    📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
    • 要点1:会社法356条は取締役に対し、会社の事業と競合する「競業取引」と、自己や第三者と会社の間で利害が衝突する「利益相反取引」について事前承認を義務付けている。
    • 要点2:承認機関は取締役会非設置会社では株主総会、取締役会設置会社では取締役会(会社法365条)であり、重要事実を開示したうえでの決議と事後報告が必要となる。
    • 要点3:承認を欠いた取引は会社に対して無効となる余地があるほか、会社法423条に基づく任務懈怠責任として損害賠償義務が発生し、役員個人が重大な法的リスクを背負う。

    【会社法356条1項をわかりやすく】競業避止義務と利益相反取引の基礎知識

    会社 法 356 条の関連写真・ビジュアル
    【画像】会社 法 356 条 関連ショット

    会社法356条1項は、取締役が会社に対して負う「忠実義務(会社法355条)」を具体化した規定です。取締役は会社の内部情報や経営資源にアクセスできる強い立場にあるため、その地位を私利私欲のために利用することを禁じています。対象となる行為は大きく分けて「競業取引」と「利益相反取引」の2種類です。

    まず、同項1号が定める競業避止義務は、「取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引」を行うことを制限しています。具体的には、自社と同じ市場で同じ顧客層に向けて競合する商材を販売したり、同業他社の取締役に就任して営業活動を行ったりする行為が該当します。会社のノウハウや顧客ネットワークを流用して会社の売上を奪うことを防ぐのが狙いです。

    一方、同項2号および3号が定める利益相反取引は、会社と取締役の間で一方の利益が他方の不利益になる取引を指します。取締役個人の財産を会社に買い取らせたり、会社の資産を使って役員個人の借金の担保を提供したりするケースが典型例です。これらの取引を行う場合、取締役は事前に会社の承認を得なければなりません。

    「直接取引」と「間接取引」の違いとは?該当する具体例と判断基準

    会社 法 356 条の様子・注目ショット
    【写真】会社 法 356 条 近影・注目カット

    会社法356条1項における利益相反取引は、取引の形態によって「直接取引(2号)」と「間接取引(3号)」の2つに分類されます。実務上、どこからが規制対象になるのか境界線を見極めることが欠かせません。

    直接取引とは、会社と取締役本人が直接の契約当事者となって行う取引です。例えば「取締役個人が所有する不動産を会社に売却する」「会社から取締役個人へ金銭を貸し付ける」「取締役が代表を務める別会社と自社との間で業務委託契約を結ぶ」といったケースが挙げられます。契約の名義が取締役個人であっても、第三者の代理人・代表者として取引する場合であっても、会社との間で直接利害が対立する構造であれば直接取引に該当します。

    これに対し、間接取引は、会社と取締役個人が直接契約を結ぶわけではないものの、実質的に会社が犠牲となり取締役が個人的な利益を得る取引を指します。代表的なパターンは以下の通りです。

    【間接取引の代表的な具体例】
    ・取締役が個人で銀行から融資を受ける際、会社がその借入れの連帯保証人になる行為
    ・取締役個人の私的債務のために、会社所有の不動産に抵当権を設定する行為
    ・取締役の親族が経営する別会社の債務を、自社が肩代わりして弁済する行為

    直接・間接を問わず、実質的に「会社にリスクや負担が押し付けられ、取締役に利益が残る構図」が存在するかどうかが厳密な判断基準となります。

    知らずに違反すると無効や損害賠償に?会社法423条の役員責任と法的リスク

    会社 法 356 条の報道・詳細資料
    【資料】会社 法 356 条 報道・メディア記録

    事前承認を得ずに競業取引や利益相反取引を実行した場合、法的にどのようなペナルティが科されるのでしょうか。違反時の法的効力と役員個人の責任は、極めて重く設計されています。

    まず、承認を欠いた利益相反取引の効力について、判例は「相対的無効」の立場をとっています。取引自体が当然に消滅するわけではありませんが、会社側は「取引相手が悪意(承認がないことを知っていた)、または善意であっても過失があった」ことを理由に、取引の無効を主張できます。直接取引であれば取締役本人は無承認を知っているため、会社は常に本人に対して無効を突きつけることが可能です。

    さらに深刻なのが、役員個人への金銭賠償請求です。承認を得ずに行った取引によって会社に損害が生じた場合、取締役は会社法423条1項(任務懈怠責任)に基づき、発生した損害全額を賠償する義務を負います。

    立証のハードルを下げるための規定も用意されています。会社法423条2項では、競業取引によって取締役や第三者が得た利益の額が「会社の被った損害額」と推定されます。また、直接取引を行った取締役は、会社法428条1項により無過失責任を負うため、「悪気はなかった」「損害が出るとは思わなかった」という言い訳は一切通用しません。

    【実務フロー】取締役会・株主総会の承認手続きと議事録記載例のポイント

    適法に取引を進めるためには、会社法に則った厳格な承認手続きとドキュメンテーションが求められます。手続きの管轄は、会社の機関設計によって異なります。

    取締役会非設置会社の場合は「株主総会」の普通決議による承認が必要です。一方、取締役会設置会社では、会社法365条1項の読み替え規定により「取締役会」が承認機関となります。取締役会での決議実務における必須ステップは次の4点です。

    1. 重要事実の事前開示:対象取締役は、取引の目的、金額、履行時期、相手先などの重要事実を取締役会で漏れなく開示しなければなりません。
    2. 特別利害関係人の議決除外:取引の当事者となる取締役は「特別の利害関係を有する取締役(会社法369条2項)」に該当するため、議決権を行使できず、決議の定足数からも除外されます。
    3. 承認決議:残りの取締役による過半数の賛成によって承認可決を行います。
    4. 事後報告義務(会社法365条2項):取引実行後、遅滞なく取引の経過や結果を取締役会に報告する義務があります。

    トラブル防止の要となるのが「取締役会議事録」の正確な作成です。後々の株主代表訴訟や税務調査に耐えうる記載例の骨子を押さえておく必要があります。

    【利益相反取引に関する議事録記載例の骨子】
    「議長は、取締役〇〇氏と当社との間における不動産売買契約の締結について議場に諮った。対象取締役〇〇氏は特別利害関係人に該当するため、本議案の審議および採決から退席した。残る取締役全員により、開示された売買価格および取引条件の妥当性を慎重に審議した結果、本取引は当社の事業発展に資するものと認め、満場一致をもって原案通り承認可決した。なお、取引完了後に遅滞なく結果の報告を受ける旨を確認した。」

    裁判所はどう判断したか?会社法356条を巡る重要判例と教訓

    会社法356条の解釈については、過去に数多くの重要判例が積み重ねられてきました。裁判所がどのような視点で取引の適法性を審査しているかを知ることは、リスク管理の観点から非常に有益です。

    例えば、取締役が競合する別会社を設立して営業を奪った事案(最高裁昭和48年11月16日判決など)では、退任直前の準備行為であっても、会社の取引先を奪取する実質的な競業行為とみなされ、多額の損害賠償が命じられています。「退任後なら自由」と安易に考え、在任中に顧客の引き継ぎや引き抜きを進める行為は明らかな義務違反となります。

    また、会社の預金を担保に取締役個人の借入れを行った間接取引の事案(最高裁昭和43年12月25日判決など)では、金融機関側の善意・悪意が激しく争われました。金融機関が「取締役会の承認がないこと」を知り得た状況であれば、会社側は担保提供の無効を主張して預金を取り戻すことができます。この判例は、取引の相手方となる金融機関や取引先にとっても、取締役会議事録の確認が必須であることを示す警鐘となっています。

    【会社法356条】に関するよくある質問(FAQ)

    Q1:1人会社(株主兼代表取締役が自分1人だけ)の場合でも会社法356条の承認は必要ですか?
    A1:株主と取締役が完全に一致する1人会社では、会社と株主の利害対立が実質的に生じないため、利益相反取引の承認手続きを欠いていても取引は有効と解されるのが一般的です。ただし、会社財産を毀損して債権者を害するような悪質な取引については、詐害行為取消権の対象や法人格否認の法理が適用されるリスクが残るため注意が必要です。

    Q2:グループ子会社の取締役が親会社と取引する場合も利益相反になりますか?
    A2:100%完全親会社と完全子会社の間の取引であれば、実質的に利害の対立が存在しないと解釈され、承認が不要とされる場面が多いです。しかし、子会社に少数株主が存在する(完全子会社ではない)場合や、親会社と子会社の双方で取締役を兼任している人物が取引に関与する場合は、会社法356条の利益相反取引として承認決議が必要になります。

    Q3:取締役会で包括的な事前承認(例:「今年度の役員間取引は枠内ですべて認める」など)を得ることは可能ですか?
    A3:原則として認められません。承認は個別の取引ごとに行うのが原則です。ただし、市場価格が明確な定型取引(例:社内規定に基づく標準的な住宅資金融資など)について、取引の種類、限度額、利率などの重要条件を明確に限定した上で一定期間枠を設定する包括承認であれば、例外的に有効と判断されるケースもあります。

    まとめ:ガバナンス強化と適正手続きが会社と役員を守る防壁に

    会社法356条が定める競業避止義務と利益相反取引の規制は、単なる形式的な手続きではありません。会社にとっては財産の流出や不当な損害を防ぐ砦であり、役員個人にとっては将来の損害賠償リスクや社会的信用の失墜から身を守るための重要なセーフティネットです。

    兼務役員の増加や新規事業の立ち上げが活発化する環境下では、利害関係が複雑に絡み合う場面が日常的に生じます。少しでも疑わしい取引を行う際は、自己判断で進めず、事前に法務の専門家や顧問弁護士へ相談したうえで、取締役会での透明性ある審議と議事録の整備を徹底することが求められます。 (出典: 会社 法 356 条(Yahoo!ニュース))

    林 健太郎 (Kentaro Hayashi)
    林 健太郎 (Kentaro Hayashi) エンタメコラムニスト

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